波止場通信
KOBE CULTURE AND ART
[いつもドキドキしてもらえる空間にしたい!]
■ギャラリーを始めるきっかけは?
サラリーマン時代、趣味で月に1回、土日に仲間たちと世界の料理教室を行っていました。印度料理なら印度人に、フランス料理ならフランス人に来てやってもらう。皆で作って、皆で食べるというものです。それで「メンバーが集まれる場所がほしいね」ということで、いまの東方ビルの3階の一室を借りた。で、サラリーマンをやめたとき、月1回しか使わない空間を何にしようかと考えて、ギャラリーをスタートさせたわけです。
■もともとアートへの興味があった?
以前からシルクスクリーンをやっていて展覧会に出したりしていた。働きながら作家活動もしていました。
■いまは3つのギャラリーに増えていますが。
たまたま隣りの部屋が空いた。窓が広くて明るくて面白いので借りようと考えたのが301。その後、一番奥の部屋も借りることにした。それがDueです。
■ギャラリーを増やした理由は?
数が多い方が、若い作家さんとの出会いが広がると思ったからです。サラリーマン時代は、メーカーですから代理店の人とのつきあいが多く、人間関係の幅が狭い。今は全然種類の違う人たちとつきあえるのが楽しい。
■3つのギャラリーの使い分けは?
企画もレンタルもやっていますが、どちらかと言えば、301は企画ものがわりと多いですね。どこの部屋を使うかは、作家さんとの話し合いで決めます。
■レンタルの場合、どんな方でも借りることができるのですか?
レンタルでも、ポートフォリオを見せていただいて、あの空間にあう作品で、僕自身が好きだなと思う作品でないと、「ちょっとごめんなさい」とお断りするケースもある。
■現代アートを扱うことにしたのは?
僕が好きだから。
■ジャンルは?
問いません。日本画でも現代アートよりの作品であればOK。陶芸でも現代アートの作品ってあるじゃないですか。油絵でも、インスタレーションでも、映像であってもいい。「あそこにいけば、いろいろな形の現代アートの作品がみれるな」というような形にしていきたいと思っている。
■現代アートは難しいと言われますが?
見たときに何か感じさせるものがある。これは嫌だとか、好きだとか。それでいいと思う。素直に見ればいい。自由に感じてもらえればいい。
■あっと驚くような作品に出会ったりしますね。
例えば、あるインスタレーションを見て、「この空間は何だろう?」とか、「あっ、こんなん初めてだな」という新鮮な驚きや感覚を持ってもらえればいい。この空間にきたら、何かドキドキさせてくれるなと思ってもらえるようにしたい。それでメールアドレスを「dokidoki 301」にしている。この空間でドキドキしてもらいたい。
[これから育つ若手作家の作品が面白い!]
■もう一つの特徴は、若い作家さんの作品が多いことですね
評価の定まった作家の作品よりも、これから育つであろう、若い作家さんのおもしろい作品を紹介し、作家さんと一緒に歩いていきたい。
■若い作家さんの探し方は?
芸大の卒業展や展覧会にいったり、作家さんから知り合いを紹介してもらったりですね。
■作家さんは関西の人が多い?
そうですね。私は神戸が好きなので、神戸出身の作家さんは、まず神戸から作品を発表してもらいたい、という気持ちがありますね。
■企画展の進め方は?
あ、この作家さん、おもしろいなと思うことがあれば、作家さんに「やりませんか」と声をかける。当然作家さんにもうちのギャラリーの空間をみてもらいます。合う、合わないがありますからね。その空間を十分知っていただいて、作品を手がけてもらう。作家さんも空間を意識される。空間と作品がぴたっとくれば、来られた方も非常に心地よい時間を過ごしていただける。
■作品によっては、ギャラリー空間を変えてしまうケースも?
当然あります。インスタレーションの場合は、空間重視なので、作家さんはギャラリーの空間そのものをいろいろ作られる。壁面を真っ白にペンキでぬられたり、窓のある301を真っ暗にして、そこで音と光のインスタレーションをやったこともあります。
■ギャラリーでも企画をやっておられるところは少ない。
そうですね。レンタルが多いですね。経営的には、その方が確実ですからね。でもそれだけだと面白くない。
■ギャラリーが街に果たす役割は?
神戸はアートが似合う街だと思う。しかし、まだまだ少ないですね。この乙仲通りにもあと2軒くらい増えた方がおもしろい。人が集まらないと駄目です。ギャリー周りができる環境があれば、大阪や京都からもきてもらえる。今後は、神戸のギャラリー同士で何かやりたいなと思っている。
■その他にも今後の抱負があれば。
空間の中だけで終わらずに、空間の外の街にまで出て行きたい。そこで若い作家さんが表現できる場をつくりたい。本来、神戸はもっと若い作家さんたちが活躍できる街だと思う。それがなされていないのは寂しい。
■最後に、現代アートを見る側への注文は?
現代アートを購入する喜び、楽しさを知ってほしいということですね。女性の方は、2万円、3万円の洋服をすぐに買うわけですよ。でも洋服はすぐに陳腐化するじゃないですか。しかし、アート作品は、買うことで、部屋の中に自分のお気に入りの作品があれば、その空間は心地よい空間に変わる。その楽しみをまだ知らない方が多い。それと、アートの購入が作家支援にもなるということですね。作家さんは自分の作品を一般の方に買っていただいたことで、次の作品づくりに、ものすごい力になるんですよ。
■今日は大変興味深いお話をしていただき、ありがとうございました。
●プロフィール
曽我金造さん
神戸生まれ神戸育ちの神戸好き。サラリーマンをしながらシルクスクリーン等の作家活動を行う。2008年、ギャラリーBASARA倶楽部、2009年、隣の部屋にギャラリー301、2010年、同じ階にギャラリーDueと次々にオープン。以後、若手作家の育成に情熱を注ぐ。
ギャラリー 301
曽我流アート・ダンディズム現代アートの若手作家育成に情熱!
ギャラリー301
ギャラリーDue
ギャラリーBAZARA倶楽部
スリムな身体にジーンズにブーツ。上は黒いTシャツに革ジャン。ダンディな出で立ちと優しい笑顔と話しぶり。曽我さんは、よい意味で、「人たらし」の才能の持ち主である。だからこそ多くの若い作家さんたちは曽我さんを信頼し、自らの才能を振り絞って作品づくりに打ち込むに違いない。 また現代アートについて、「私は専門的に勉強したわけじゃないから難しい芸術論はわかりません。でも必要ないと思っています」と語るが、私も同感である。業界内だけで通用する秘密暗号文の羅列を理解できなくてもかまわない。素直な心で作品と向き合い、驚いたり好きになったりすればいい。現代アートは見る者の既成概念を壊し、想像力の羽根を広げさせてくれる。 「若い作家さんたちのよき伴走者でありたい」と願う曽我さんにとって、若手作家の成長こそ嬉しいことはない。こんなギャラリーが神戸にもっと増えることを祈る。
まとめ
昨年春、私が神戸のオフィス探しのために乙仲通りをぶらぶらし、ギャラリー301の看板を見つけて入ったのが、曽我さんとの出会いの最初だった。
まるで以前からの知り合いだったかのように気さくに話しかけていただき、作品の説明はもちろん、私がオフィスを探していることを話すと、親切に周辺の状況などを教えていただいた。さらにギャラリーで展示された作品が、私の好きな現代アートで興味深かったこともあり、以後、たびたび訪れては作品を見て回り、作家さんや曽我さんと何度も話す機会を得た。
神戸はアートが似合う街であり、画廊の数も少なくない。だが、現代アートを扱っているところは極めて少数のようだ。現代アートをもっと身近なものにしたい、そして若いアーティストを育てたい、という曽我さんの熱情をひしひと感じた私は、改めて取材を申し込み、曽我さんの考えをじっくりと伺うことにした。(2012.04.03)