波止場通信
KOBE CULTURE AND ART
小野澤博司さん
銭湯に魅入られた人
「yurariで銭湯特集をやっていましたね。私、全国の銭湯を1年半で440ほど巡りました。いま大阪に居るので、一度会ってお話ししませんか?」
「どうしてそんなに数多く回ることができるんですか?」
「フーテンの寅みたいな生活をしていますのでね」
この電話が小野澤博司さんとの最初の会話だった。そのときは先約があったため会えなかったが、後日、元町の居酒屋で酒を酌み交わしながら話しをした。5月某日のことだ。
小野澤さんは、これまで入った銭湯についてノートに克明に記録していた。実にまめな人である。私とは大違いだ。
「昨日は淡路の岩屋にある扇湯に入ってきました」
実は会う数日前、電話で扇湯に入ってきた話をしたばかりなのだ。なんという行動力。あきれるばかりである。
他にも、いろいろと全国の銭湯の話をしながら別れた。
そして11月某日。再び、電話がかかってきた。
「いま関西です。公衆浴場背景画保存会の会員としても活動してます。会いませんか?」
再び、同じ元町の居酒屋で会うことにした。
銭湯入浴記録はその後も更新され続け、2年間で564。これはノートに記録をつけ出してからの記録で、記録以前の銭湯を数えると2000を超えているだろうと小野澤さんは言う。ちなみに、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合による『銭湯お遍路「176浴場」を達成されました』と書かれた賞状も見せてもらう。
まだある。公衆浴場背景画保存会の会員証。さらに同会監修による「お家のお風呂に貼るポスター」。函には「庶民の文化・心のふるさと」の文字、外人が湯に浸かっている顔の横には「ほぉ〜 日本っていいな〜」のキャッチ。ともに秀逸である。
函から出されたポスターは、銭湯の背景に相応しい絵柄ばかりである。私も1枚頂いた。これを家のお風呂の壁面に貼って、狭いながらも銭湯気分でも味わいますか。
しかし、小野澤さんと話をしていて改めて気付いたことがある。
銭湯を趣味にすれば、楽しむための費用は他の趣味に比べて圧倒的に安くすみ、しかも心も体もほっこりする。お互いにいい趣味をもったものだとしみじみ思う。小野澤さん、ありがとう。(2017.11.22)
yurari11号に「銭湯特集」