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<ハーバーランド会場>

屋内でのコンテナ展示が、残念!

 まず、神戸ハーバーランドのファミリオ会場から行こう。前回までは、野外のメリケン波止場が会場だった。今回の会場移転の理由は、3月11日に起きた東日本大震災の影響だとだけ聞いていた。それって、コンテナが被災地に利用されるからなのだろか、と推測していたが、それだけではないようだ。野外設営に使う電線や建築資材も被災地の復興にために使われたそうだ。その結果、屋内のファミリオ会場に、コンテナと同じような四角い閉鎖空間を作って作品を展示することになったのだ。

 先ほどの経緯から仕方ないが、従来は、閉鎖的なコンテナと、明るく開放的なメリケン波止場とを往復することで気分や視線を入れ替えることができ、また次にコンテナへ入る興味が湧いたものだが、今回は、コンテナを出ても屋内なので、気分の切り替えができない。「さて次のコンテナの中身はどんなやろ?」というワクワク感が薄れてしまう。これは作家の責任ではないから仕方のない話だ。

 もう一つ残念だったのは、会場の出入り口にあるゲートアートの実物大にお目にかかれなかったこと。ファミリオというビル内なので、巨大なゲートを建てることもできず、仕方のないことだが、やはり残念である。

 そんな中で個人的に好きな作品を二つ紹介したい。 一つは、石上和弘氏「白昼の夜空へ」。荷台に牛を載せた軽トラックの席に座れば、前方に夜空が見える仕組み。アイデアも去ることながら、牛に哀愁と物語性を感じる。しかしトラックに乗るのは狭くて至難の業。細身だっから辛うじて乗れたら、太めの人は絶対無理。コンテナサイズの計測間違いかも。 もう一つは、宇吹新氏「TALKING HEADS」。捨てられたカセットテープ群が、文明の廃墟や復讐に燃えるサイバー空間のような不気味な雰囲気を醸し出している。テープの音による演出効果も意表をついて面白かった。

 

<兵庫県立美術館>

かつての前衛。いまも堂々たる力を見せつける

 1950年後半から70年代にかけて、日本とドイツで活躍した前衛芸術グループ「ZERO」と「具体美術協会」の作家たちの作品を展示していた。かつての前衛も、いまは何やら落ち着いた風情。でもさすがに貫禄がある。

 元永定正氏の新作100点を壁面一杯に展示したものは愉しくて愉快だ。また、ビニールチューブの中に色インクを入れた水の作品は、初めてお目にかかったこともあり、斬新に映った。 松井紫朗氏の「君の天井は僕の床」は、展示室を囲む廊下に巨大バルーンをはりめぐらしたもので、おもちゃの国に迷い込んだような、ミクロの決死隊のような不思議な世界を体験させてもらった。

 

<元町高架下>

意外と広い空間。高さを生かした作品群

 JR元町駅から神戸駅までの高架下で展開するアートプロジェクト。これが予想以上に効果をあげていた。高架下の空間の高さにまず驚いた。高架下の狭いイメージとは違って、本来は2階建てとして使っている所なので、1階天井部分をぶち抜いて使えば、かなりの高さになる。その高さを巧みに利用した作品がいくつかあり、これまでにない視覚的効果を発揮していた。

 中でも気に入ったのは、人長家果月氏の「Etoile」だ。見上げるようなの高さのスクリーンに宇宙の映像と、バレリーナの映像が交互に流れされる。そこに観客の映像も重なって映される仕組みなのだが、これが何とも幻想的ですばらししい。宇宙空間に吸い込まれて一緒にダンスをしたくなる気分だ。私ばかりでなく、多くの人がスクリーンを見とれいたのが印象的だった。 高架下という日常空間の隙間に非日常的な空間が現出するという、意表をついた面白さが高架下アートプロジェクトにある。2年後の次回はどうなるか分からないが、今回以上に多くの作品が展示されることを望みたい。

 

<ポーアイしあさい公園>

唯一の野外展示。港の風景を巧みに取り込む

 今回、新たに会場に加わったポーアイしおさい公園だが、ここが個人的には一番大きな収穫エリアだったと思う。海と空、そしてポートタワーやメリケン波止場をみることができる眺望を背景にした野外公園に、作品が伸びやかに深呼吸するように点在しており、散歩気分で作品を見て回るのは実に楽しく、好きな作品も数多く出会うことができた。

 角野晃司氏「監視者」、石川智弥紙「港のキリン」、芝生に人形オブジェを配した伊藤嘉英氏「輝く人」など、風景に巧みに取り込んだ親しみやすい作品に好感を抱く。 こうした具象的な作品とは別に、球体のレンズを集めた沖津雄司氏「views ensemble」は、見る者の角度によってレンズを通して港の風景が千変万化する。地面に金箔を円形に貼っただけの藤江竜太郎氏「GOLDEN ZERO」。曇っていると何も分からないが、太陽や夕日が出ると見事なまでに神々しい輝きを放つ。シンプルにしてゴージャス。自然の威力を感じさせる作品だ。

 そして私の一押し作品が、関口恒男氏「ポートアイランド レインボーハット」である。大小2つの岩山を重ねたような小屋に入ると、モンゴルのゲルのような、原始が作った小屋のような不思議な空間が。上からつり下げられたヘッドホンで音楽を聴く事も出来る。レンボーハットとは“虹の小屋”の意味で、作者の関口氏自ら、水に浸けたプリズムを動かして小屋の壁面に虹を現出させてくれる。なんと関口氏は、ビエンナーレ期間中、毎日小屋に常駐して虹をつくったり小屋の修理をしたりしているという。こんな作家がいることに大いに驚く(近く「波止場通信」で関口氏を紹介する予定だ)。

 一方、愉しみにしていた乃村拓郎氏「空をみる舟」は、風に耐えられないという理由から作品展示を断念した。野外展示には、こうした難しがついて回る。だが前回までメリケン波止場で行っていた野外展示がしおさい公園で行われ、素晴らしい作品に出会えたのはラッキーと言わざる得ない。

 

 こうして今回、4つの会場を巡って感じたのは、作者にとって作品を発表する「場」の重要性である。「場」の設定によって、発想、材質、形状、効果などは大きく違ってくる。4つの会場がもつ「場」の性質がまったく違うので、そのことが際立ったビエンナーレである。(2011.10.30)

 

 

石上和弘氏「白昼の夜空へ」

宇吹新氏「TALKING HEADS」

松井紫朗氏の「君の天井は僕の床」

人長家果月氏の「Etoile」

 沖津雄司氏「views ensemble」

 藤江竜太郎氏「GOLDEN ZERO」

関口恒男氏

「ポートアイランド レインボーハット」

角野晃司氏「監視者」

「神戸ビエンナーレ2011」極私的見聞録

「場」が与える作品への影響

 

 

■4つの会場で展開

 神戸ビエンナーレ2011が10月1日に始まって、すでに半月以上経過。今回の入場者は多いのだろうか。評判はどうなのだろか?  別に主催者でもないのに気になってしまう。人の評価はともかくして、まず私の感想を記しておこう。

 今回のメイン会場は、神戸ハーバーランドのファミリオ、兵庫県立美術館、ポーアイしおさい公園、元町高架下の4つだ。そのうち、しおさい公園は自宅から近いから初日の午後に行き、高架下はオフィスから近いので、散歩がてら見て回る。そして10月14日(金)、仕事の合間を縫って、やっとファミリオと県立美術館に足を運ぶことができ、ほっとしたところだ。

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