
波止場通信
KOBE CULTURE AND ART
たそがれの国ポルトガルへ
2016年6月上旬、久々の海外旅行先として選んだのは、ポルトガル。その理由は、たそがれの年代にさしかかった人間にとって、たそがれの国ポルトガルは、心情的にも惹かれるものがあったこと。それにテロが頻発する中近東、ヨーロッパの中にあって、比較的安全な点も選んだ理由だ。
そして訪れたポルトガルは、想像以上に素晴らしかった。安全で料理もおいしく、物価も安い。また控えめで真面目な点なども日本人に似ていて親しみがわく。世界遺産は修道院が多くて、少々辟易したが、どれも規模壮大にして華麗。大航海時代を切り開いた国ならではの富の蓄積と過剰装飾に呆然としたものだ。ポルトガルは、もう一度、訪れたい国となった。(2016.8.4)
サンティアゴ&ポルトガル周遊 8日間(6/9〜6/16)
関空 → ドバイ → リスボン → トマール → ポルト → サンティアゴ・デ・コンポステーラ → ポルト → コインブラ → バターリャ → ファティマ → アルコバサ → ナザレ → オビドス → ロカ岬 → 再びリスボン → ドバイ → 関空

ジェロニモス外観を撮影しようと思っても、幅広すぎて、全景を撮ることは不可能。圧倒的スケールに、いきなり度肝を抜かれる。この修道院は、大航海時代の幕を開いたエンリケ航海王子と、ヴァスコ・ダ・ガマを讃えてマヌエル1世が、1502年に着工。約1世紀をかけて完成。マニエル様式を代表する記念碑だ。入口の門の上にエンリケ航海王子の像があり、中にはヴァスコ・ダ・ガマと、ポルトガル最大の詩人、カモンイスの石棺がある。
ゴシック建築様式をベースとしているが、海外交易で築いた巨万の冨を象徴するかのように、過剰装飾が特徴である。イスラム様式のほかに、海草やロープ、鎖、貝殻、天球儀など海洋、新大陸、そしてキリスト教の象徴がデザインに取り入れられている。ヴァスコ・ダ・ガマの石棺の表面には、帆船、ロープ、胡椒、天球儀などの穂彫り物が施され、サンタ・マリア教会のメインの柱は、何と椰子の木を模して作られていて、胡椒修道院とも言われる。そりゃそうだ。胡椒貿易こそが最大の利益の源泉なのだから。
写真に納まりきれないジェロニモス修道院の外観
椰子の木を模した柱
ジェロニモス修道院に度肝を抜かれる
リスボン


コルク製品
旅行で一緒だった男性から「ポルトガルがコルク製品の生産量と質において、世界一なんですよ」と聞いた。それは初耳だ。だが、闘牛場内にあるコルク専門店に並んだ財布やバッグの完成度の高さを見て合点がいった。値段は小さい物なら千円台であった。買えばよかった。
他の地域の土産物屋にもコルク製品はあったが、最初の専門店の印象が強すぎたせいで買う気になれなかった。
ちなみにコルク製品は、コルクガシの樹皮を使う。コルクガシは南欧から北アフリカに分布し、ポルトガルのコルク生産量は、全世界の半分以上を占めるそうだ。

この他に、財布、小銭入れ、傘、靴、洋服などもある
ポルトガルの闘牛
リスボンの宿泊ホテルを地図で探すと、何と近くに闘牛場があるではないか。あわよくば闘牛をみることができるかどうか調べると、シーズンは5月から10月頃まで。これはOKだ。リスボンでは木曜日の夜に開催されるらしい。私たちが宿泊するのは、金曜日の夜だ。嗚呼、1日違いで絶好のチャンスを逃してしまった。でも、外観だけでも見に行こう。
ってな訳でホテルから歩いて行くと、遠目でもこれは目立つ。レンガ造りのイスラム風の建物だ。1階と地下が専門店とスーパーマーケットになっている。入場口までいくと、座席には入れないが、外周にある専門店やレストランには入れるようだ。たしか近くにも入れるようになっていたぞ。
少し引き返して、地下に入ると、ショッピングセンターになっている。多くの専門店と、中央にはスーパーマーケットまで入っている。ここで、地元のビール「スーパーボック」を1本だけ買う。
ちなみにポルトガルの闘牛は、スペインとは少々違うそうな。素手で立ち向かう闘牛士がいたり、一番大きな違いは、観客の前で殺さないという点らしい。ポルトガルの方が優しい配慮がなされているということか。

イスラム風外観の闘牛場。手前から地下スーパーマーケットに入ることができる
十字軍、レコンキスタに出会う
トマール
トマールのキリスト修道院で、いきなり十字軍のレコンキスタ(キリスト教国によるイベリア半島の再征服活動)に出会う。日本人にとってほとんど縁のない世界であり、世界史の教科書でしか出会わない単語である。
このキリスト修道院は、アルフォンソ1世から与えられた土地にテンプル騎士団が城塞と聖堂を築き、その後、テンプル騎士団は弾圧され、キリスト騎士団へと引き継がれたものだ。
売店には、十字軍をテーマにしたものが多く、連れ合いは、テンプル騎士団のキーホールダーを購入していた。
ガイドさんから、テンプル騎士団を扱った映画、「キングダム・オブ・テンプル」(リドリー・スコット監督)を教えてもらう。帰国後、見ましたよ。史実を元にして作られたものなので、リアリティがあり、十字軍とイスラム軍との凄まじいまでの戦闘シーンは迫力満点。しかし、キリストとイスラム教との闘いは、古代から現代まで続いていることを考えれば、人間にとって宗教とは何なのだ?と考えざる得ない。
マヌエル様式の窓
キリスト修道院の外観を見た時、ヒンズー教寺院にも似た装飾過剰ぶりに、思わず「これは悪趣味な」と呟いたらしい。中に入り、その文様の意味が分かると、マヌエル様式に対する見方も変わってきた。
ここにはマヌエル様式の最高傑作と呼ばれる大窓があるが、仔細にみると、マルタ十字軍と国の紋章、ロープ、鎖、珊瑚といった大航海時代を象徴するモチーフが刻まれている。他にも、椰子、天球儀、胡椒といったモチーフも見られる。つまり植民地から得た収穫物をできるだけ多く披瀝したくてモチーフに取り込んだため、どうしても装飾過剰にならざるを得なくなったというわけだ。

テンプル騎士団の城塞と聖堂として誕生した

絵画や映画でしかみることのない十字軍

マヌエル様式の最高傑作と呼ばれる窓
ポルトガルの闘牛はピカドールが主役
ピカドールは、日本語でいえば槍方である。馬にまたがって牛に6本の槍を突き刺す役目であり、マタドールが存在しないポルトガルの闘牛における主役である。でも真の主役は、突進する牛をすれすれにかわす馬だといいたいね。ま、怖がる馬を乗りこなすピカードが主役という解釈なのだろう。
ポルトガルの闘牛では、その後、8人が出てきて、素手で牛を押さえ込むという何とも無謀というからユーモラスな闘いが繰り広げられるのだ。この8人組は、なんとボランティアらしい。ワインと食事と交通費しか出ないのに、この役目をやりたいというのだから、面白い国だ。

レストラン「ピカドール」。ピカドールは、絵のように馬に乗っている
ポルト
パノラマ的風景が広がっていた
ドウロ川沿いにあるポルトワインのサンデマン醸造所は、旧市街の川を隔てた対岸にある。ここから周辺を見回したときのパノラマ的風景は、忘れ られないほどみごとなものだった。
ドウロ川には、ワイン樽を積んだ船が浮かんでおり、正面にはカテドラルやポルサ宮が並び、右手には、エッフェルの弟子が建てた二重構造橋のドン・ルイス1世橋。上層はメトロ、下層は自動車が走るが、どちらも徒歩で渡ることができる。
上層から見えるドウロ川の景色は絶景ということで、刊行パンフによく使用されているが、あいにく上を歩く時間はなかった。

ドウロ川に架かるドン・ルイス1世橋
世界一美しい駅14選に選ばれたサンベント駅
ポルトワインの貯蔵庫
ポルトガル的風景を際立たせるアズレージョ。その決定版、サンベント駅
ポルトガルの町並が優しく調和しているように感じるのは、家の外観をなす壁面や瓦がいずれも優しい色で統一されているからだろう。さらにポルトガル独自の装飾タイルであるアズレージョが、小粋でお洒落な雰囲気を一段と盛り上げている。
そのアズレージョの決定版というべき建物が。「世界で最も美しい駅14選」にも選ばれていたサンベント駅だ。ここは何 と言ってもホールを囲む四方の壁面を彩るアズレージョの見事さに尽きる。セウタ攻略や、ジョアン1世のポルト入場など、ポルトガルの歴史的なできごとが描かれている。
今回の旅行の愉しみの一つが、ポルトワイン場での試飲体験であった。訪れたのは、サンデマン醸造所。ここの醸造所が採用しているテンガロンハットと黒マント(コインブラの制服をイメージ)のシンボルマークが印象的で、一度見たら忘れられない。ガイド役の男性がまた同じ格好をして案内してくれる。何とも粋なやり方である。
試飲で、ヴィンテージとホワイトの2種類をいただく。どちらも甘くて旨い。自分用と澤井さんへのお土産用に、ガイドが進めてくれた「タウニーポルト インベリアルレゼルブ」を購入した。満足なり。
帰国後調べてみると、ポートワインの最大の輸出先は昔からイギリスであり、他国よりも関税を下げるなどの特権を受けていた。その関係かどうか、ワイナリーには、イギリスやスコットランドの企業が多いそうだ。
ポルトワイン工場で試飲体験
紛れもなく駅です




シンボルマークの姿で説明
サンティアゴ・デ・コンポステーラ(スペイン)
修復中の大聖堂。揺れない大香炉
以前、テレビでも見た大聖堂。その巨大さと儀式で振られる大香炉(ポタフメイロ)に驚いた経験がある。それを実際にこの目で見られるかと思えば、いやが上にも期待は高まるばかりだだった。
ところが着いたときに見たものは、修復中で足場が組まれ、青色のネットで囲われた大聖堂の姿だった。これじゃあ、写真を撮っても台無しだ。そういえば、中国北京の紫禁城のときも、大和殿が修復中で全体が白い布で覆われていて落胆したことを思いだした。
では大香炉に期待しよう。大香炉が広い身廊の空間をブランコのように揺れる様は、なかなかの迫力だ。だが、これも特別なミサの依頼があったときのみ揺らす儀式があるとかで、普段は、上からぶら下がっているだけだ。もともと大香炉の儀式の始まりは、長い期間歩き続けてたどり着いた巡礼者たちの体臭や衣服から立ち上る異臭を緩和するために行われたものらしい。こっちは巡礼者でもなく、汗も大してかいていない。大香炉が揺れていなくても仕方ないか。
巡礼について
キリスト教徒の三大巡礼地というものがあるらしい。エルサレム、バチカン、サンチャゴの3つである。私たちが訪れる道中、何人もの巡礼者の姿を見かけた。
サンチャゴへ巡礼する方法は、全部で4つのルートがあるらしいが、そのすべてが世界遺産になっている。
最近、日本でも四国八十八カ所巡礼が人気だが、その巡礼者に外国人の姿も増えてきたとテレビで報道していた。中にはスペイン巡礼の道を歩いた人たちも少なくない。キリスト教徒が何で四国巡礼なの? という素朴な疑問が湧く。
ここからは私の独断的推論であるが、彼らは、キリスト教、仏教といった宗教とは関係なく、巡礼マニアなのだろう。何百キロも歩き続け、到達したときの達成感、至福感。これを味わった人は、次はどこを巡礼しょうか、てなものだ。そういう意味では、マラソンランナーに似てなくもない。

修復中の大聖堂

購入した絵はがき
中央に釣り下げられている大香炉


巡礼者が訪れる歓喜の丘
コインブラ
コインブラで訪れた新カテドラルは、イエズス会が100年近くかけて作ったもので、金泥細工を施した祭壇周りの壮麗さには舌をまく他ない。祭壇の中央には天国の階段がある。これを上ると天国へ通じるというわけだ。
また左右にあるパイプオルガンにも目を見張る。新古典様式と呼ばれるものらしいが、この華麗な装飾はどうよ。音を鳴らすだけなら、パイプが並んでいるだけで事足りるはずだが、それでは物足りないわけだ。その一部を拡大した写真を見ても、細部がいかに凝っているかが分かるはずだ。
天国への階段と壮麗なパイプオルガン
コインンブラ大学のジョアニア図書館にのけぞる
TV「世界不思議発見」のポルトガル特集を見たときに出ていたのが、コインブラ大学のジョアニア図書館である。そのあまりの重厚華麗さにのけぞったものだ。今回の旅行の最大の愉しみのひとつだった。もちろんばっちり写真を撮るつもりでいたが、なっ、なんと撮影禁止(今回の旅行で撮影禁止はここだけ)。これは脳内記憶装置に頼るほかない。
さて、実際に図書館に足を踏み入れてみると、図書館というより、クラシックな大聖堂を連想させる空間が広がっていた。館内は3部に分かれており、造り付けの書架にぎっしりと並ぶ蔵書数は、30万冊に及ぶ。書架をはじめとする室内装飾も見事。東南アジアから取り寄せた木材を用いて製作された各書架には、煌びやかな金泥細工が細部にわたり施され、天井や壁、柱には見事なフレスコ画が描かれている。
さらに図書館内に新カテドラルと似たパイプオルガンがあった。なんで図書館に必要なの?と思わず突っ込みをいれたくなる。つまりは、図書館を超えた図書館なのであった。





