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希薄な人間関係と過剰消費の時代を超える「TuKuRu」の突破力

ツクルの店頭

NPO法人ソーシェア理事長・東村奈保さん

■神戸市の空き店舗対策から、「TuKuRu」誕生!

 2015年1月にオープンしたNPO法人ソーシェア(代表・東村奈保さん)が運営するクリエイターの発信基地「TuKuRu(ツクル)」は、元町6丁目商店街にある。私の事務所から5分ほどの近さで、お店の前も何度も歩いているはずなのに、何と昨年10月までその存在を知らなかった。

 私たちが出しているフリーペーパー「yurari」の熱心なファンであるB氏が訊ねてこられ、「yurariをTuKuRuさんに置かれたらどうですか? 冊子を見せたら置きたいとおっしゃってますよ」と勧められた。どんなところかと興味を抱いてB氏の案内でお店を訊ねたのが、東村さんとの最初の出会いであった。

 店内に並ぶシャツ、ジーンズ、バッグ、アクセサリー、皮小物等は、有名ブランドや量産品でなく、クリエイターたちの手作りによるものが大半。そして内装も、廃材や使用済みの木材バレットなどを利用したもので、ローテクというか手作り感に溢れていて、とてもいい感じである。

 さらに作品の販売だけでなく、カフェスペースではハンドドリップ珈琲を飲むことができ、奥にある庭ではバーベキューパーティもできる。さらに2階には、セミナーや読書など自由に使えるコワーキングスペースもある。

 ここは、神戸市の「地域商業活性化支援事業」と、元町6丁目商店街振興組合の「空き店舗活性事業」の一環の中で東村さんの提案が採用されて実現したもの。すでに新聞等で何度も紹介されており、知らなかったのは、私だけであった。訊けば東村さんは、㈱ビビッドワークスでホームページ制作を行い、ソーシェアで、TuKuRuの他にコンセプト型のシェアハウスの運営にも関わっている。

 これは面白い。新聞記事等にも目を通したが、知りたいことはまだ山のようにある。ということで、東村さんに取材をしたのが11月18日。だが年末年始の忙しさにかまけて、原稿に仕上げるのが、恐ろしく遅れてしまった。ただただ申し訳なく、恐縮するばかりである。

店舗の陳列棚などすべて廃材を利用した手作りだ

店内には、個性的で味わい商品が数多く並んでいる

■ソーシェアハウスの話から始めよう

 まず、ソーシェアというネーミングに引かれた。たぶん「ソーシャル」と「シェア」の造語であり、そこに彼女の気持ちが込められているに違いない。

 「そうなんです。ホームページ制作会社をやっているときも、クライアントと打ち合わせをしたりとかで人と関わるし、会社そのものが社会的存在であり、税金もはらっていますよね。でも何かもの足りない。もっと社会に関わるような仕事をしたいと考えていました」

 そして、ある日、コンビニで、一人暮らしと思われるおじいさんが、自分用の食材を買う姿を見て、彼女はいたたまれない気持ちになる。「物がこんなに溢れているのに、食べるのは一人だけ。何か、日本、間違っているのとちゃうやろか。もっと基本に戻って、みんなで食事ができるようなシェアハウスができたらいいな」と考えた。

 誰もが見過ごすことに彼女は目を向け、現代が抱える問題に向きあおうとした。核家族化と少子高齢化の進展により、単身世帯が増加し、人と人の関係が希薄化し、孤独な人が増えているのだ。NHKが特集した「無縁社会」はその最も突出した例といえよう。かつての大家族で暮らしていた時代、縁側におばあさんが座っていて知り合いに声をかけたり、夏には縁台や玄関に出て涼んだり、雑談を楽しんだりした時代とは大きな違いである。

 こんな社会はおかしい。と多くの人たちが考え始めている。もっと気軽に話をしたい。つながりを持ちたいと考えている人が増えている。アサダワタル氏が提唱している自宅の一部を解放して、会社の人でもなく、地域の人でもなくて、誰でも入って語ることができる「住み開き」の発想は、現代人の切実な心の渇きの反映でもある。

 こうして社会的な問題を解決するコンセプト型のシェアハウスを作ろうと決意した東村さんが2013年2月14日に立ち上げたのが、NPO法人ソーシェアだった。現在、農家と地域と住民がつながるソーシェアハウスを大阪に2軒運営している。

NPO法人ソーシェア副理事長・與田千尋さん(左)と東村さん

■「所有」するより、「利用」する方がカッコいい時代へ

 ソーシェアというネーミングから考えられるもう一つの側面は、シェアの時代の到来を告げていることだ。シェアには、「分かち合う」「共有する」という意味がある。それは過剰消費時代への疑問符であり、限られた資源、時間、空間などの有効利用について考えることに他ならない。

 ここで想起されるのは、物々交換、レンタル、リサイクル、リユースといった言葉であり、昔から人々はこれらのシステムを利用していたが、いくつかの例を除けば、多くは少人数での活動にとどまっていた。

 だが、インターネットとSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の普及により、瞬時にグローバルかつ膨大な人々との情報交換が可能となり、ビジネスへと変貌しつつある。シェアに限っても、住居、部屋、車、自転車、農園等のシェアビジネスが急増しているのはご存知の通りだ。

 自分一人で「所有」するよりも、みんなで「利用」する方が、スマートでクールである時代、互いにシェアをすることで新たなコミュニケーションが生まれる。そこに楽しみがあり希望がある。

 TuKuRuのカフェスペースも、2階のコワーキングスペースも、比較的安い料金で利用できるだけでなく、同じ空間にいる人たちとコミュニケーションを図ることで、お互いに刺激を受け、新たな発見をすることができ、友人の数だって飛躍的に増えるだろう。こうして積極的にシェアをすることで人々は、「無縁社会」の対極に立つことができる。

■活性化のためにカフェやイベントを加える

 ところで、ソーシェアハウスを運営していた東村さんが、なぜ「TuKuRu」をオープンさせることになったのか?

 「シェアハウスのことを発信していたら、流通科学大学の方から、学生向けにシェアハウスのスピーチをしてほしいという依頼がきて‥。授業中に、たまたま副学長が見学に来られて、シェアハウスが面白いと思われたようです。当時、流通科学大学と元町商店街が協力して空き店舗の活性化に取り組んでおられて、一度、話を聞いてほしいと呼ばれたのが、2014年の8月。そこで、モノ作りのクリエイターさんがこの地域に多いので、その作品を展示販売できるような常設店をやりませんか、みたいな企画を神戸市さんと商店街さんにしたわけです」

 では、それでいこうと、話がどんどん進み、今度は、では誰がするの?ということになった。「私も企画している内に、これ面白そうやなと思って。じゃあ、自分がやりますと言ってしまって。大阪が拠点でしたが、8月に神戸に来て、10月には商店街と契約して、12月には店を開けた。記憶がないくらい、忙しかったです」と笑う。

 

 スタート当初は、クリエイターの作品の展示販売だけだったが、商店街に人が通らないし、雑貨に興味がないのかお店に人が入ってこない。

 「これはまずいな」と思い、利益がでなくてもいいので、とりあえず入って来てもらおうと珈琲代を200円(今年から300円)にして、2月からカフェを始めた。以後、徐々にカフェの常連さんも増えてきた。来る人を増やさないと、モノも売れないし、活性化なんてできない。次はイベントも企画し始めた。例えば、秋だから、秋の味覚を味わう会みたいにして、炭火でさんまを焼くとか。そこから場所貸しをしたり、主催イベントをしたりして、だんだん広まってきた。現在、3分の2くらいが持ち込み企画のイベントだそうだ。

 先述したように、私が顔を出したのは昨年10月からだが、いつ行っても、いつも複数人が珈琲を飲みながら東村さんを交えてお客さん同士で談笑している姿を目にした。ここにくれば、誰かとつながりをもてる。そんな雰囲気があった。

Barができる以前のカフェースペース

2階のコワーキングスペースでは、セミナーなどが開催されている

■TuKuRuが、こうしようと、私に言うんです

 1年を振り返ってみてどうですか?

「まだまだやりたいことがあるのに、追いつかないという気持ちの方が強くって。すごく不思議な話なんですけど、TuKuRuをやりはじめて思ったのは、場所が人格をもち出す。私というよりも、この場所が、ああしよう、こうしようと言ってくるような感じ。それに引きづられて、じゃあやろうかと」。

 私流に解釈すればたぶん、ここに集まる人たちがTuKuRuに求めているものが、東村さんにとって、TuKuRuが要求するように感じるのだろう。

 

 昨年12月20日、「TuKuRu 1周年記念イベント」が開催され40名以上が集まった。今年の1月からこれまでの運営委託の形から、自主運営に切り替えるに当たって、これからのTuKuRuを考えるためにみんな真剣にアイデアを出し合ったのだ。これも東村さんのキャラクターと、場の持つ魅力なのだろう。

 

 ここで出たアイデアを参考にしながら、今年2月から「Cafe リニューアル」「Bar オープン」、TuKuRuだけでは紹介しきれないクリエイターを紹介する「miniギャラリー展開催」などの新企画が登場した。私もさっそく2月1日、Barオープン初日に顔を出し、神戸ハイボールやワインなどを楽しんできた。

 さらに2月はイベント強化月間として、「赤穂の牡蠣を心ゆくまで食べる会」「パンとコーヒーの会」などの計画が目白押しで次々に実施されていった。

 原稿が遅れている間にも、こうして変貌し進化し続けるので、新しい情報を盛り込むのに大変である。昨年撮影した店内写真も過去のものとなり、新たに撮り直すことになった。目まぐるしく変貌・進化し続けるTuKuRuの速度と突破力に恐れ入るばかりである。

 

 最後に、もう一つ紹介しておきたいのが、東村さんが神戸市に企画提案して採用された、元町商店街における回遊型図書館の計画である。これは、各お店業種に関連する本(古書中心に品揃え)を置き、来店客に、気にいった本を無料で貸し出すというシステムだ。本を通じてお店のスタッフと話し合う機会が増え、商品やお店に対する理解と愛情を深めることができる。こうした試みは、多分全国でも初めてだろう。現在、趣旨に賛同するお店を募っているところらしい。

 「これは元町商店街での試みですが、もしうまくいけば、もっと広げたい。神戸の街全体がそうなっても面白いと思う」と東村さんは微笑む。

 なんて素晴らしい企画ではないか。本をシェアすることによって、個々のお店が、商店街が、さらには街全体が図書館になるなんて。シェア時代の新しい可能性を示すものといえよう。う〜ん、恐るべし。東村ワールド。(2016.03.04)

使用済の木材パレットを利用してディスプレースペースに!

今年の2月1日からTuKuRUバーもスタート!

壁面の手前には毎月、作家の作品を紹介するミニギャラリーが誕生した

裏庭で牡蠣パーティ。焼いております

ツクル・ツナガル・ツキヌケル

クリエイターがツクル作品を、展示販売する場に皆が集いツナガル。さらに知恵を出し合い、現状をツキヌケル。それが「TuKuRu」だと思う。

<付録>

 

27番目のクリエイターとして登録されました

 何度かTuKuRuを訊ねているうちに、制作していた切り絵のポストカードを、片隅でいいから置いてもらえないかと打診したところ、快くOKが出たのは良いが、「ポストカードを置くだけでは駄目ですよ。きちんと作家として登録し、切り絵の原画も展示してください」と言われてしまった。結果、私は27人目のクリエイターとして登録され、原画はもちろん、以前に制作した宣伝用ポスターまで貼り出すことになったのだ。嬉しいやら、恥ずかしいやら。人生、何が起きるか分からないものだ。

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