top of page

タンゴ・アンサンブル「スールース」

街角でアルゼンチン・タンゴが聞こえる日を夢見て。

 

 

 

発作的タンゴ愛好症候患者が、スールースと出会う

 ジャズ、ブルース、ソウル、シャンソン、カンツォーネ、ボサノバ、歌謡曲など、音楽は何でも好きだが、アルゼンチン・タンゴを聴くと、途端に心をわし掴みにされる。そして時々無性にあの官能のリズムに心身をゆだねる愉悦に浸りたくなるのだ。

 タンゴとの出会いは、映画「ラスト・タンゴ・イン・パリ」で音楽を担当したガトー・バルビエリのテナーサックスにしびれたあたりか。30代の頃は、先輩I氏に勧められて藤沢嵐子のLPを買ったりもした。最近はピアソラの曲がCMによく使われているし、バンドネオン奏者・小松亮太の出現によって若者の中にもファンが増えたに違いないと思っていた。 そして昨年10月下旬、神戸元町のカフェ萬屋宗兵衛で「SURUS(スールース) LIVE」があった。

 生タンゴの演奏を聞くのは初めてなので、期待は膨むばかりで、何と最前列のかぶりつき。スールースのメンバーは若手が多く、観客席も若い連中で埋まるのだろうと思っていたら、あれれ、年配ばかり。それもかなりご高齢の人たちだ。日本では1950年代に一度タンゴブームが巻き起こっている。アルゼンチン・タンゴのファン年齢層は、今でも70歳以上が中心なのだろうか?  演奏は全19曲、とても素晴らしくて大いに堪能。

 さらに今年に入ってからも2月と3月に同じ萬屋宗兵衛でのスールースのライブを堪能した。 ちょうどNHKの衛星放送でも「栗山千明のタンゴカフェ」を放送していた。これを機会にタンゴブームは再び日本に到来するのだろうか。タンゴを演奏するスールースの4人のメンバーにタンゴの魅力について、そして日本におけるタンゴ人気の行方などについて取材をさせてもらった。なお4人とも忙しく別々に活動することも多いため、私のアンケートに答えていただき、座談会形式にまとめることにした。タンゴでも聴きながら、ゆっくり読んでいただきたい。

 

<座談会>

 

[タンゴとの出会いと、楽器が果たす役割。そして悪魔の楽器、バンドネオンについて]

 

━━━まずスールース誕生のきっかけを代表の南出さんから。

南出●2004年に、関西におけるタンゴアンサンブルの大御所『アストロリコ』のLIVEを聴きに行ったとき、ピアノの南木、バンドネオンの仁詩、そしてバイオリンの私が顔を合わせやってみよう!ということで結成しました。南木と南出の2人に南(SUR)の文字があることから、バンドネオンの巨匠・門奈紀生さんが「SURUS」(スールース)と名付けてくださいました。ピアノの南木が体調を崩し大長に代わり、コントラバスの後藤が加わり現在のメンバーになりました。

 

━━━活動状況は?

南出●スールースとしては、萬屋LIVEを中心に、神戸近辺で活動しています。

 

━━━では4名の方に質問です。タンゴとの出会いと、どこに惹かれたのかを。

南出●私の場合は、先ほどもいいましたけど、他のタンゴアンサンブルでヴァイオリンを弾いてと頼まれたのが、タンゴとの出会いであり、演奏の始まりでした。

後藤●高校生の時、ピアソラの「アディオス・ノニーノ」を聴いてはまりました。当時吹奏楽部で演奏していたのですが、コントラバスの音はうもれがちで…。ある時ピアソラのCDを聴いたら、コントラバスの音がブンブン聴こえて来たことに魅力を感じました。

大長●今考えれば、タンゴと出会ったのは、大学生の時にクラシックの仲間とピアソラの「リベルタンゴ」や「タンゴの歴史」をやろう!と言って練習したのが出会いと言えば出会いですが、そのときは「さぁ、タンゴをやるぞ!」というような意識も特にせずに取り組んでいました。

仁詩●まずバンドネオンの存在を知り、その後でタンゴのことを知りました。タンゴのドラマ性や緩急のついたリズム、なによりもかっこいい音楽だという点に特に惹かれました。

 

━━━南出さん以外の方は、タンゴの演奏を始めたのはいつから?

後藤●大学3回か4回生くらいだったと思います。

大長●5、6年前からです。ふと、タンゴを勉強できる機会があるという案内を見かけ、たまたまスケジュールが空白だったので足を運びました。ドキドキしながらタンゴのリズムを一つ勉強し、初めての世界に刺激を受けるとともに、ポカーンとなりながら帰路に。その後しばらくしてから、勉強会で会ったバンドネオンの方とばったり偶然出会い、有り難い事に演奏の機会を頂き、それが私がタンゴに関わり始めた出発点でした。そのバンドネオンの奏者がスールースのメンバーでもある仁詩氏です。

仁詩●バンドネオンの演奏を始めたのが9年前からなのでその頃からです。

 

━━━タンゴにおいて、各自の楽器が果たす役割は?

南出●うまく表現できませんが、バイオリンの場合は、曲の中で華やかさ、色っぽさ、はぎれのよさ。まるでタンゴダンスの女性のように思えます。

後藤●コントラバスは、リズムの主導権を握っていると思います。普通はリズムはパーカッションが担当ですが、タンゴにはパーカッションが無いので、コントラバスとピアノの左手が担当になります。ジュンバやミロンガ、シンコパなどタンゴ特有のリズムがあって、まだまだ勉強中です。

大長●ピアノはソロでも演奏が成り立つけれど、完全にバックに徹することもできる楽器であると思います。アンサンブルになれば、編成によってもピアノのいるポジションが変わるし、1曲の中でも役割が変わります。ただ、左手は常にコントラバスと変わらない不動の意志を持って全体を支えないといけません。かと思えば、バイオリンやバンドネオンよりも歌いたい!と思えるソロが現れたり、的確なバッキングでリズムをつくったり、曲の流れを少し変えるきっかけを出す機会も他の楽器より少し多いのではないかなと思います。

仁詩●小編成においては主にメロディを担当しますが、ヴァイオリンやピアノがメロディを担当する時にはリズムや対旋律も担当します。

 

━━━最もタンゴらしい楽器といえば、バンドネオンだと思いますが、バンドネオン奏者は少ないようですね。

仁詩●アルゼンチンを除いて世界的に少ないですね。

 

━━━なぜ少ないのですか? 楽器が少ないからか、難しいからですか?

仁詩●両方です。楽器の数も少ないですし。

 

━━━バンドネオンは悪魔の楽器と言われるほど難しいと云われていますが。

仁詩●そんなことはありません。どの楽器も難しいですよ。ただ、とりつきにくいことは確かです。相性が悪い人は、悪いと思います。とりあえず覚えないと弾けないですし、手元が全くみえませんから。もちろん手元を観ながら弾くのは良くないんですけど、この楽器は同時に全部の鍵盤を見ることができません。ピアノやギターは、全部見えますけど。アコーディオンも見えにくいんですけど、バンドネオンはアコーディオンよりさらに見えにくいというのはありますね。

 

━━━しかもキーが音階順に並んでいない。

仁詩●だけど、それを上手く使って弾くんですね。並んでいないということは、隣にスゴク高い音がいたりする。だけに、バンドネオンじゃないと絶対に弾けないようなフレーズもさらっと弾けることがある。

 

━━━つまり、取っつきは悪いけど、そこをクリアすれば、非常に面白い?

仁詩●面白さはいっぱいあります。そこが一番ですね。この楽器でしかできないことがいろいろあります。

 

 

[独特の雰囲気、哀愁のあるメロディが魅力。楽器自体の可能性を引き出せる音楽です]

 

━━━タンゴの魅力はなんでしょうか?

南出●音楽を聴いても演奏してても、体から音楽を感じられることでしょうか。悲しい曲、楽しい曲、激しい曲、とてもきれいな曲、どの曲も物語があるように思えます。

後藤●もともとクラシックを勉強していたので、「楽譜に忠実に」という頭でしたが、書いていないところにおかずをいれたり、ゆっくりにしたり速くしたり、楽譜という器のなかでオリジナリティーを出すのではなく、器自体をやりたいように変えれる音楽なんだと思います。その延長にあるのは、ジャズだと思いますが、ジャズになると楽譜が無くコードだけでとかになり、タンゴもそうだと、やっていなかったかもしれません。

大長●メロディが口ずさみやすい。初めて聞いてもすーっと耳に馴染みやすい曲がたくさんあります。そんなメロディーたちに絡むリズムがタンゴには欠かせないのですが…。例えば譜面上では4分音符が4つ並んでいても、ポンポンポンポンと4つ弾いてもタンゴにはならない…。微妙な弾力性や方向性が音に含まれていて、それを感じとって、絶妙なアンサンブルが繰り広げられます。また、楽器自体の可能性をいろいろ引き出せる音楽ですね。音色一つにしても、甘い女性的な旋律〜、かと思いきや、おっさんがドーンと出てきて、かと思ったら少年少女が楽しそうにケラケラ笑ってたり。奏法においては、特に弦楽器では、「この奏法はクラシックではあり得ない!」という声を聞きます。でも、そいれがイイ魅力的なのです。

仁詩●タンゴの魅力は、音楽のドラマ性やリズム、そして独特の雰囲気、哀愁のあるメロディでしょうか。日本人が元々好んでいたどちらかというと「悲しみ」の音楽性が一番かなと。

 

━━━今まで演奏について語ってきましたが、タンゴには歌も踊りもある。

仁詩●その通りです。日本ではなかなか融合していませんが、タンゴはもともと「演奏」「歌」「踊り」が三つそろった音楽です。でも時代の流れで、これらが一緒に共演するケースはかなり減ってしまいました。

 

━━━3つの最近の流れは?

仁詩●演奏では、スタンダードなタンゴからいろんな要素を発展させ、世界中にタンゴ音楽を広めたアストル・ピアソラもいますし、近年ではクラブミュージックとタンゴを融合させた音楽も存在します。ヨーロッパでは人気がかなりありますし、最近アメリカの映画などにもそういったものは使われています。踊りは世界中に広まったこともあって、世界中の方々がタンゴを求めてブエノスアイレスに踊りを勉強しに行かれています。皆が楽しむサロンのダンスとショーダンスのためのダンスがかなり違う方向で発展しているというのもポイントかなと。歌はスタンダードなタンゴというより、タンゴのエッセンスを用いていろんな音楽やリズムを使った形でアプローチする方々も出ています。これはポップス的なアプローチともいえますが。

 

━━━タンゴで好きな曲は?

南出●私にはまだ知らない曲がいっぱいありますが、結構歌の曲なんか好きです。例えば「首の差で」「バチンの少年」などですね。ワルツもきれいな曲が多くて好きです。

後藤●基本的にピアソラの曲が好きです。最近は晩年の6重奏の時代の「ルナ」「セクステット」「ラ・カモーラ2」等です。ヴァイオリンの代わりにチェロが弾いていることでトーンが暗くなり渋さが増していて、はじめの頃は魅力を感じなかったですが、だんだん聴けるようになりました。

大長●うーん、難しいですね。思いつく順に挙げます。好きな順では無いですよ。「カナロ•エン•パリス」「ラ•ジュンバ」「Nada」「Desde el alma」「Francia」「悪魔のロマンス」「Bardosa Floja」などですか。やっぱり挙げれません。すみません。

仁詩●沢山ありすぎて書ききれません。タンゴで好きというより僕はタンゴが好きです。もちろんその中で興味のもてないものもありますが、時代を問わずいい演奏、いい曲は好きです。

 

 

[日本で作られたアルゼンチン・タンゴの曲で、ヒット曲は一つもない。それが現状です]

 

━━━日本のタンゴの状況はいかがですか?

南出●一般的ではないですね。皆、曲を聴くといいねとはいいますが…。TVなどでしょっちゅうタンゴが流れているのですけどね…。

後藤●海外の現状を知らないので比較はできないですが、もっと演奏されてもいいのではとも思います。音大生や音楽をやっている方は、タンゴ=ピアソラ=リベルタンゴということで「リベルタンゴ」を演奏したことはわりとあるようですが、リベルタンゴよりも良い曲っていっぱいあります。そういうのを伝えていける活動をできたらいいと思っています。

大長●昔からタンゴが好きで、自分の時間を楽しめる年齢になられた方々から、「大好きでね〜」とお話を聞くことがよくあります。広い年齢層の方々に聞いてもらいたいですが、ライブにとなると、働き盛りの若者は都合が合わないためか、難しいですね。近年は、ダンスの世界チャンピオン誕生のお陰もあり、テレビでもよく取り上げられていて、「テレビでタンゴ見た!」という人も沢山いますし、「ダンス習おうと思って」という声をちらほら聞いたりすることもあります。でも、それと音楽への興味とは別なようで、なかなか難しいですね…。

仁詩●10年ほど前くらいから考えたら、かなり演奏家もダンサーも増えたと思いますが、まだまだ少ないと思います。しかも沢山増えたのはあくまで東京近郊での話で、そもそもバンドネオン奏者自体がもともと少ないので、タンゴに興味をもつきっかけ自体が少ないのだと思います。日本はどうしても歌文化なので歌で一曲でもタンゴの曲がヒットすれば状況はかなり変わるかもと思いますが、僕の知る限り、日本で「タンゴ」と名前がついた曲でアルゼンチンタンゴのヒット曲は一曲もないと思います。「黒ねこのタンゴ」はヨーロッパの曲な上、リズムもヨーロッパタンゴのリズムですし、「だんご三兄弟」は日本の曲ですが、やはりリズムはヨーロッパのタンゴです。しかもどちらも子供向けな曲なのでその時点で大人の心には訴えかけれないと。ピアソラの日本での一番のヒット曲「リベルタンゴ」に関してはインストの曲ですしね。

 

━━━リベルタンゴはテレビCMに使われていました。

仁詩●メディアではCMやドラマのBGMなどで結構バンドネオンが使われるケースがありますが、クレジットも何も出てこないので、たいていの方にはアコーディオンとの聞き分けはつかないぐらいかなと。

 

━━━神戸にタンゴカフェができればいいと思いませんか?

南出●神戸ならありそうですけどね。できたらいいですね。

後藤●あるといいと思います。

大長●多国籍な神戸に、かわいいタンゴカフェ、きどらないスタバ的なノリで入れるような、気さくなカフェがあれば、いいな〜と思います。

仁詩●神戸はもともとタンゴファンの方々が多いので一定の需要はあるかと思いますが、あくまでも60代以上の方じゃないかな。タンゴってカフェミュージックにするには音楽の主張する力が強いのでBGMになりにくい要素がある。昔のジャズ喫茶的なアプローチでしたらありだとは思うのですが、ジャズ喫茶ももうほとんどありませんし…。ちなみにタンゴ喫茶は京都は数年前に閉店しましたが大阪には1件残ってます。神戸も以前あったはずなのですが、もうないのでしょうか…。

 

━━━皆さんにとって神戸はどんなところですか?

南出●私は神戸でヴァイオリンを教えているので、来ることも多いし買い物もしやすいので好きな街です。

後藤●オシャレな街です。

大長●おしゃれなお店がある、おいしいお店もある、復興した街、歴史も大切にしている街、 観光地としても人気な地元という感じです。でも、近所なあまりに、仕事やライブで行くこと以外であまりゆったり神戸を楽しんでいないかもしれません。でも、やっぱり雰囲気は大好きですし、歩くたびに未だに発見がある楽しいところです。

仁詩●京都生まれ、京都育ちの僕にとって神戸という港町は海があって新鮮な町です。坂道が多くて盆地育ちの人間には少し辛いところもありますが、すぐ近くに自然も沢山あっていいなと。あと素敵なお店が沢山ありますよね。神戸っていう雰囲気をもった町だと僕は思っています。

 

━━━アルゼンチンに行かれたのは、大長さんと仁詩さんですね。

大長●タンゴピアノを習いに行きましたが、ついでにスペイン語教室にも行きました。語学の方は聞き取れても自分の意志を発信できない段階で終わりました。幸運なことに、現地のミロンガで数回演奏させてもらえる機会があり、貴重な経験ができました。そして、その時開催されていたタンゴフェスティバルにも、仁詩氏とデュオで出演させてもらいました。お肉もおいしいし、印象はとても好印象でした。

仁詩●思ったほどタンゴは町にあふれていません。まあそれは日本にもいえる話ですが。日本の音楽もどこにでもあるわけではないですし。町は昔のヨーロッパの印象を受けます。あくまでイメージですが。でもそこに確かにタンゴの歴史があり、まだその生き証人の方々がいます。その方々や町の雰囲気に触れるだけでタンゴに親しんでいく実感が湧きました。

 

[タンゴの演奏家もファンもまだまだ少ない。間口を広げ、アプローチを変える必要がある]

 

━━━日本でタンゴファンを増やすには、どうすればよいと思いますか?

南出●どうすればという事がわかってれば、LIVEはいつも満席ですよ(笑)。若者にもっと来て頂きたいです。

後藤●ダンスではなく音楽のファンを増やすということに関してですが、バンドネオンが無くても演奏できる、良いアレンジの楽譜が出版されることじゃないでしょうか。タンゴといえばバンドネオンかもしれないですが、バンドネオン奏者は少ないですし、そこが壁になっている気がします。それにタンゴの楽譜を売っているお店自体少ないです。自分も含めてクラシックの方は楽譜が無いと腰が重いです。ぱっとやってみて「良い曲やし次のコンサートで使おっか」という、その「ぱっ」とできる環境が必要だと思います。

大長●例えば知人と話していて、「タンゴ」という言葉を知っていても、実際にどんなものか知らない方は結構いらっしゃいます。一番最初の私のように。ファンになるには、やはり知ってもらわないと。メディアの力を借りて、番組をする、とかラジオ番組を設けるとかして、より多くの方の目や耳に自然にタンゴが触れるようになれば、いいのではないでしょうか。

仁詩●良くも悪くも、間口を広げることでしょうね。タンゴは魅力的な音楽なのですが、若い世代にはともすると、固いイメージやどれを聞いても同じに聞こえる。これは演奏者の選曲だったり演奏の方にも関係してきますが…。どうしても形式美を重んずる音楽にはありがちな話ですが。ただ、それはアルゼンチンでも同じで、アルゼンチンですら若者はタンゴをあまり聞きません。いいところお父さんやおじいさんが聞いていた音楽で一緒にラジオやレコードで聞いたことはあるけど…といった認識ですね。取っ付きにくさよりも取っ付きやすい、渋い、切ないよりもオシャレ、カッコイイなどアプローチ自体を変えていくのも重要かなあと思います。音楽の楽しみ方が変わってきている昨今なので、いい音楽をしているだけではお客はこないというのと同じですね。しっかり音楽が分かっている人とメディアなどを使って宣伝したり流行を作るのが上手い人とが部分的にでも協力しあうというのが必要なのかなと思います。乱暴な意見だとは思いますが、きれいで若めな女性がタンゴを歌ってヒットソングが作れればそれだけで世界は変わる気がします。

 

━━━最後に、南出さんから、今後のスールースの活動について。

南出●私と若者3人で同じ音楽に向かい合っているので、私の気力と体力の続く限りLIVE演奏でお客様とともに私達もタンゴで楽しみたいです。

神戸の夜にはタンゴが似合うはず

 

 なぜ私はタンゴを聴くと心を奪われるのか。自問自答した結論は、タンゴには、人を酔わせる濃度が高いからだ。フォークソングが、ネモネードやジンジャエール、せいぜいバドワイザー程度だったとしたら、タンゴは、ワインやカクテル、吟醸酒のように芳醇で濃度が高い。だからすぐに酔ってしまう。

 ご存知のように神戸といえばサンバ、といわれるくらいサンバとの縁は深く、神戸祭りやサンバフェスティバルでは、健康な肢体が飛び跳ね、サンバのリズムが弾ける。それはそれで結構であるが、健康なサンバは昼だけでいいだろう。港町神戸の夜は、同じ港町ブエノスアイレスのポカ地区から生まれた哀愁のタンゴの方が似合うのではないか。「昼はサンバ、夜はタンゴ」というわけだ。

 移民たち苦悩と愛への渇望。それがタンゴの原点だ ラプラタ川河口にあるブエノスアイレスのボカ地区で生まれたタンゴは、移民たちの愛への渇望から生まれた音楽だ。ヨーロッパからアルゼンチンへ渡った移民たちの中でも多かったのがイタリア系の移民たちで、彼らは言葉の壁があるため仕事にもつけず、ほとんどが男性であったから、女性のパートナーも見つからない。わずかな金をつかむと、安酒場、カフェ、娼館などへ走り、憂さを晴らすのだった。そんな中でタンゴが生まれ、彼らは娼婦と踊ったり、女性が少ないから男同士で踊ったりたりした。

 アルゼンチンタンゴの踊りは、観るのは楽しいが、踊るのは難しそうに見える。だが「基本は、抱擁して歩くこと」にあるという。それが洗練されていっただけだ。そう考えれば、当時の男たちの行き場のない想いと苦悩、絶望的なまでの愛の渇望などに想いを馳せることができよう。(2012.05.07)

南出康子さん

(バイオリン)

広島県生まれ。京都市立芸術大学音楽学部卒業後、ソロ、室内楽、オーケストラ、スタジオ録音と演奏活動中。また、タンゴアンサンブル「SURUS」にてLIVE活動中。

仁詩(ひとし)さん

(バンドネオン)

1983年京都生まれ。大阪音楽大学短期大学部ジャズ専攻卒業。バンドネオンを門奈紀生氏に師事。09年夏、ブエノスアイレスの老舗ミロンガ「サロン・カニング」での演奏をはじめとして、多くのミロンガで演奏。また同年夏のタンゴフェスティバルに出演、好評を博す。09年春、1stCD「DIVERSION」、12年、2stCD「Yorimichi 寄りみち」を発表。現在、東京を拠点に日本各地において自身のグループを率い独自の活動を展開中。

後藤雅史さん

(コントラバス)

1983年京都生まれ。大阪音楽大学短期大学部ジャズ専攻卒業。バンドネオンを門奈紀生氏に師事。09年夏、ブエノスアイレスの老舗ミロンガ「サロン・カニング」での演奏をはじめとして、多くのミロンガで演奏。また同年夏のタンゴフェスティバルに出演、好評を博す。09年春、1stCD「DIVERSION」、12年、2stCD「Yorimichi 寄りみち」を発表。現在、東京を拠点に日本各地において自身のグループを率い独自の活動を展開中。

大長志野さん

(ピアノ)

兵庫県尼崎市生まれ。大阪音楽大学音楽学部楽理(現在音楽学)専攻卒業。第12回日本ピアノオーディション奨励賞。第7回長江杯国際音楽コンクールにアンサンブルで入賞。管弦打楽器、声楽等のバロックから現代曲まで幅広く伴奏し、各種演奏会に出演する。近年は、アルゼンチン・タンゴにも力を入れて演奏活動をしており、2009年夏にはアルゼンチン(ブエノスアイレス)に渡り研鑽を積む。

仁詩さんの2ndアルバム

「よりみち Yorimichi」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タンゴの可能性を感じさせるご機嫌なアルバム

 

1. 灰色のミロンガ

2. スム

3. 南の街

4. ラベンダー

5. また明日

6. ル・グラン・タンゴ

7. アルフォンシーナと海

8. リベルタンゴ

9. この道

 

 「今回のCDは、タンゴはもちろん、フォルクローレ、ヒーリング、ブルース、唱歌からピアソラの大曲「グランタンゴ」まで幅広く、そしていろんなシーンで聴いて楽しんで頂けるCDになったと思います」(仁詩さん)と自分のブログで綴っているように、とてもご機嫌なアルバムです。北原白秋作詞・山田耕筰作曲の「この道」のタンゴバージョンなどは実に新鮮。おすすめですよ。

bottom of page