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JINS三宮店のアートイベントに招かれて

ベンチャー企業経営者は、

現代アートと並走する

■電子音楽をバックに、

 鈴木ヒラク氏のライブペインティング

 2016年12月16日(金)、午後7時から西日本の旗艦店として同年7月にオープンしたJINS三宮店で開催された「ARTWALL お披露目イベント」に招待されて行った。

 現代アート作家の鈴木ヒラク氏の名前は知らなかったが、資料によれば、“描く”という行為を主題に、平面、インスタレーション、壁画、映像、パフォーマンス、彫刻など多岐にわたる制作を展開してきたアーティストであるとのこと。彼の作品は、すでに壁面に飾ってあり、今回のパーティでは、2階ガラス面にライブペインティングするという仕掛けだ。音楽をバックに描かれていくドローイングを見ていると、ホアン・ミロとパウル・クレーに近い神話性と親和性、リズムと躍動感があってとても楽しい。

 ショップ全体を揺るがすかのように電子音楽が鳴り響く。1階に降りてみると、奥のスペースでマザーテレコなるバンドがライブ演奏をしていた。パーティで出されているフード類もユニーク。凝ったものばかりで、食べてみると旨い。聞けば神戸市内にある小さな会社らしい。

 つまり、アートも音楽もフードも斬新なものばかりで、妥協を許さない潔さを感じるのだ。たぶんこれはJINSの企業ポリシーに相通じるものなのだろう。

 案内状には、次のような一文が添えられていた。

 

 弊社のブランドビジョンは

 『Magnify Life(マグニファイ・ライフ)』であり

 見ることを通して人生を豊かにするブランドでありたいと考えております。

 アーティストの『眼』を通して、さまざまな手法を用いて創り出される世界は新しく、美しい。そんなARTとJINSは向き合っていきたいと考えます。

 

■業界の常識を打ち破って成長を続けるJINS

 JINSブランドで知られる株式会社ジェイアイエヌは、それまで中間マージンが多く発生し、高い粗利を確保ししていたメガネ業界の常識と習慣を打ち破って急成長を続けてきた“メガネのユニクロ”と称される企業である。同社の田中仁社長が出演していたテレビ大阪の「カンブリア宮殿」を偶然に見たことがある。そして今私がかけているメガネもJINS神戸駅店で購入したものだ。それも同時に2本を大人買いをしたが、それを可能にしたのは、従来と比べて価格が格段に安いからである。

 値段が高い、デザインが悪い、買ってから手元にくるまで日数がかかるなど、これまで人々が抱いていたメガネに対する不満があるところにビジネスチャンスあり!と判断して2011年4月にメガネ業界にし、わずか2年後の2013年5月に東証一部に上場するなど見事に事業を成功させたのが、JINSである。

 JINSの成功に刺激を受けて、いくつもの後発会社が同じようなコンセプトで進出し、競争が激化してきたのは当然の成り行きだ。その中で仕掛けた今回のアートイベントは、改めて新たな地平を切り開こうとする、JINSの決意表明にも思えた。

 

■アートへの感受性が鋭敏な第三世代

 そんなことを考えて帰宅した翌17日(土)の日本経済新聞朝刊の文化欄に、「ベンチャー経営者が収集家に」「現代アート ビジネスを刺激」「第三世代、経営哲学と共鳴」といったタイトルが踊り、興味深い記事が掲載されていた。

 ストライプインターナショナルの石川康晴社長が80年代以降のコンセプチュアルな作品に絞って購入し、将来は岡山に世界一のコンセプチュアルアートの美術館を開く夢を語ったこと、衣料品通販「ゾゾタウン」を開設したスタートトッディの前沢友作社長がウォーホールやリヒターらの作品約500点を購入、将来、出身地の千葉市に美術館を設立する計画があること、インターネット関連事業を手がけるGMOインターネットの熊谷正寿社長は、英国の作家ジュリアン・オピーの世界有数のコレクターであることなどが紹介されていた。

 さらに面白いのが、実業家と美術界とのつながりの分析である。多摩美術大学学長の建畠哲氏によると、西洋美術を集めた大原孫三郎(大原美術館で有名)たちを第一世代、現代美術を集めたセゾングループの堤清二氏や、ベネッセホールディングスの福武総一郎氏らを第二世代。そして先ほどの3名を含めたベンチャー企業経営者たちを第三世代と位置づける。

 第一世代は使命感で収集し、第二世代は企業イメージと文化戦略を重ねて収集した。それに対して、第三世代は、「アートに対する感受性が鋭敏で、コレクションが経営者としてのポリシーと強くシンクロする、新しい潮流」と分析する。

 

■これからが楽しみなJINSとアートの関係

 いやあ、面白い。つまり第三世代は、アートを庇護するものでなく、また企業イメージを高めるための道具でもなく、自らのビジネスを刺激する仲間であり並走者であるような感覚で接していることがよくわかる。

 ストライプインターナショナルの石川社長が語っている。「作家はつねに新しい発想が求められる。ビジネスも同じで、変わらなければ終わる。本では学べないクリエイティブをアートから吸収できる」

 ここに登場した3人のベンチャー企業経営者以上に、業界のタブーを破って新しい眼鏡ビジネスを切り開いたJINSの田中社長もまた、現代アートに多大な関心を寄せているに違いないと、勝手に想像している。先日参加したパーティは、そう思わせるだけの十分な内容を備えていた。

 さて、今日は1週間前に注文したブルーライトカットのメガネの受取日である。出かけるとするか。(2017.1.15)

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