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ユメノマドと観光立国

 

 

 

新開地にオープンしたゲストハウス

 2013年3月末、神戸・新開地にオープンした外国人旅行者向けゲストハウス「ユメノマド」。バックパッカーのためのネットマガジン「Brali」の代表・編集人クリハラノブユキ氏から7月6日の内覧会に招待されてつぶさに見学し、大いに感心したにもかかわらず、これまで「波止場通信」できちんと紹介しなかったのは、私の怠慢で恐縮するばかりである。ユメノマドは、すでに新聞・雑誌などで何度も紹介されているから知っている人も多いと思うが、改めて簡単に紹介しておこう。

  ユメノマドは、地元で生まれ育った三上真由美さん(36歳)が、15年前に亡くなった祖母の家と宿をリノベーションして開いたもの。個室や2人部屋のほか、最大4人が泊まれる部屋など計9室が用意されている。部屋ごとにドアの模様や内装が変えてあり、共通の洗面台がアールヌーボー調だったりして、アート気分満載のゲストハウスだ。カフェ併設のゲストサロンは欧米の外国人が作ったような和洋折衷の不思議な空間。日本というよりアジアっぽい。ここで寛いだり、情報交換をしたりする。オープン以来、欧米やアジアから多数のバックパッカーが宿泊に訪れているという。

ゲストハウス不毛地帯だった神戸

 ちなみにネットで国内のユースホステル、ゲストストハウスの数を調べると、京都と東京に集中していて、それぞれ27件。続いて大阪17件、長野12件に対して神戸はたったの3件。しかもゲストハウス、バックパッカーズホテルだけに絞れば、神戸は1件しかなく、不毛地帯といっていい。そんな状況の中でオープンしたのが、ユメノマドというわけだ。神戸にとっては待望のゲストハウスであり、観光立国をめざす日本の今後について考えるきっかけにもなった。

 

バックパッカーが泣いて喜ぶ絶妙の立地

 内覧会で訪れて改めて感じたのが、ユメノマドの場所が絶妙であることだ。神戸電鉄新開地駅から商店街を北に徒歩3分。飲み屋が建ち並ぶ狭い通りに入ると、場違いのように玄関がカラフルに彩色されたユメノマドに着く。すでに異世界の雰囲気が漂う。 まず神戸の中心地・三ノ宮ではなく、比較的物価が安く、街の人達とも気軽に触れ合える神戸の下町・新開地であること。コストを抑えながら旅をして、さらに現地の人と交流したいと願うバックパッカーにとっては願ったりかなったり。下町レトロを味わうには格好の場所だ。

 周辺エリアも魅力的である。すぐ北側には湊川公園があり、東側には福原エリアが広がっている。ユメノマドの位置は、天井川だった旧湊川の土手に当る位置だから、周辺より高く、福原エリアを遠くまで見下ろすことができ、これが結構な眺め。バックパッカーたちは、湊川の河川付け替えと新開地の誕生という神戸の近代史の跡を目の当たりにすことができるだろう。 新開地駅を拠点にすれば、東西に簡単に足を伸ばすことも可能だ。ハーバーランドも近いし、三ノ宮で買い物をしたり、灘の酒蔵見物するのもいい。あるいは世界最長の吊橋・明石海峡大橋を見みたり、北へ向かって六甲山ハイキングを楽しんだり、有馬温泉でまったりしてもいい。

 

物価が高くて、街が歩きにくい日本を敬遠!

 最近、日本が力を入れているのが観光立国であり、2003年に外国人の訪日を促進するビジット・ジャパン・キャンペーンを始めたものの、ここ6年ほどは横ばい状態が続いている(リーマンショックや、東日本大震災の影響もあり、その年は減少している)。

 日本政府観光局(JNTO)が発表した、2012年度の「世界各国、地域への外国人訪問者数」によると、日本は835万人で33位。ちなみに1位フランスは8300万人。続いて米国、中国、スペイン、イタリア、トルコとなる。

 日本への外国人訪問者数の少なさの理由は、いろいろあるだろうが、私は、「物価の高さ」と「観光客への配慮の少なさ」が大きく影響していると思っている。 同じアジア諸国のなかでもマレーシア(10位)、香港(12位)、タイ(15位)、マカオ(20位)、韓国(23位)、シンガポール(25位)の方が多い理由の一つは物価の安さだ。フランス、イタリア、米国などは物価が高くても、陸続きであったり、近かったりするから移動費用が安く済むし、魅力的な観光資源を多く備えている。一方、欧米人にとって日本は遠いうえ、物価が高いので避けたくなる。アジア諸国の人達だって日本は高いと感じているはずだ。

 観光客への配慮も足りない。日本人は、おもてなし文化の国であり、外国人にも親切だと思っている人は多いが、日常的に外国人観光客に接する機会の多いホテルや百貨店のスタッフを除いて、一般の人達は、外国人が大の苦手。英語で話しをすることができず、そのうえ異文化理解への努力も足りない。

 さらに街を歩いても英語表記が極端に少なく、迷う外国人の姿をよく見かける。「交番」を「KOBAN」とローマ字表記しているのも理解に苦しむ。そこは「POLICE BOX」とすべきだろう。

 外国人観光客にしてみれば、日本は物価が高く、道を歩くにも標識がなく、尋ねようとしても逃げられてしまう。そんな国に行きたいと思うだろうか。パックツアーで訪日する人達は、さほど不便は感じないだろうが、自由に個人旅行を楽しみたいと思うバックパッカーたちにとっては大きなネックである。

 

「訪日外国人 なぜ増えているの?」(毎日新聞)

 ここまで書いたところ、12月1日付けの毎日新聞に「訪日外国人 なぜ増えているの?」なる記事が掲載された。それによると、今年は過去最高を更新しそうないきおいで、1000万人に達するかも知れないという。 その要因として挙げているのが、円安の進行で日本での買い物に割安感が出ていること、格安航空会社(LCC)の台頭で安く訪日できるようになったこと、東南アジアの中間富裕層が増えたこと、東南アジア各国に対する査証(ビザ)の発給要件を緩和したことなどだ。

 だが増えたと言っても1000万人程度である。今後、さらに増やすには、観光施設や交通機関などでの外国人旅行者に分かりやすい情報提供をすること。最近になって、国会周辺の道路標識をローマ字から英語表記に変え始めたらしい。さらに日本の自然や歴史、文化的に価値の高い「日本ブランド」を発信することを提案している。

 

バックパッカーが日本の魅力を世界に発信!

 毎日新聞の記事を読むと、私が考えていたこととほぼ同じであることが分かる。早急に街中の英語表記に取り組むべきだろう。日本人における外国人アレルギーの解消法を考えることも必要だ。円安による割安感が広がったのは結構なことだが、東南アジアの中で、日本の物価水準や交通費などはまだまだ高いと思う。 こうした問題が残っていることを考えれば、訪日外国人を増やすためにゲストハウスが果たす役目はとてつもなく大きい。

 ゲストハウスの宿泊料金は、安い。ユメノマドの場合、相部屋の1泊料金は一人2500円、個室は4200円からであり、他のゲストハウスも似たような料金だろう。これなら、滞在した地域を気に入れば、長期滞在も十分可能である。

 またバックパッカーの多くは優れたブロガーであったりFacebookの利用者であったりする。持参したノートパソコンやiPadなどを通じて、自分が体験したこと、魅力的なスポットなどを詳しく紹介してくれる。それらのスポットは名所旧跡だけでなく、日本人の私たちでも気づかなかった魅力的なスポットを発見して紹介してくれるだろう。 より多くのバックパッカーが日本を訪れることで、草の根ネットワークが世界中に広がり、新開地の魅力、神戸の魅力、関西の魅力、日本の魅力が伝わっていく。

 そのためには、日本各地にもっと多くのゲストハウスが誕生することが重要だ。宿泊料金の幅が広がることで、バックパッカーだけでなく、一般の外国人旅行客の利用も増えるに違いない。 私はバックパッカーではないが、今後、旅行するときは、ホテルや旅館ではなく、ゲストハウスを利用して、ご主人や滞在バックパッカーたちと交流を図るのもいいかなと考えている。(2013.12.02)

Cafe Manager

木村大輔ブンさん

美味しい珈琲をいれてくれる人。かつて世界中を巡り、珈琲に対する蘊蓄と情熱はケタ違い。ユーモア感覚に溢れ話が弾みます。最近、自ら焙煎して販売するなど、カフェ部門、ただいま進化中。

ネーミングについて

ユメノマドの英文表記は「YUME NOMAD」。ノマドとは遊牧民のこと。ちなみに、最初は「夢の星旅館」で、次に「夢の里」に変わり、現在の「ユメノマド」へと至るらしい。共通する単語は「ゆめ」。ここはつねに、宿泊者たちに夢を見させる場所だった。

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