波止場通信
KOBE CULTURE AND ART
デジタルでは得られない、不安と期待
さて翌23日、生徒の一人として参加した私は、10台ほどある改造針穴写真機の中から1台のカメラを選ぶ。富士フィルムが製造した子供用カメラである。6×6のフィルムをカメラに装着する。針穴写真機には穴をあけただけで、焦点を調整する機能はなく、また光量を得られにくいので、通常のカメラより長い露出時間が必要になる。対象物と周囲の明るさによるが、今回の露出時間は5〜7秒ほど。いずれにしても三脚は必須である。フィルムは12枚。とにかく対象が絞り切れず、モトコーからメリケンパークまでの間で、適当に撮影を続けた。
しかしフィルム撮影は何年ぶりだろうか。デジタルカメラだとその場で撮影状態を確認できるが、フィルムはそうはいかない。どんなふうに写っているのだろうか。好きな人に宛てて書いた手紙の返事を待つような心境である。結局、2時間近くかけてプラネットEartHに帰り、フィルムを出して終了。後日、米田さんが現像した中から選んでもらった作品を各自2点ずつを展示していただいた。光栄なことである。(2013.07.16)
私の作品。どう見ても大正か昭和の写真。このボケ味が針穴写真の魅力
穴から覗いた外の風景
針穴写真展の中央に置かれていた針穴写真機。いずれも改造されたモノ
床面に前のビル、壁面に自動車が逆さに走っている
子供用カメラを改造したものを使用
参加した3人の作品。右の2つが私の作品。他の2人の方がはるかに上手でした
カメラの原点「針穴写真」に挑戦!
真っ暗な空間の壁面と床面に外の景色
ひょんなことから「針穴写真にトライⅧ」に参加する羽目になった。
実は、6月22〜30日に、プラネットEartHで開催されていた「米田定蔵&黒川武彦針穴写真展」の初日に顔を出した時、ベテランカメラマンの黒田さんに勧められて2階に上がると、そこは黒い布で光を遮断した真っ暗な空間だった。只一つ、窓際に小さな穴が開いていて、そこから光が差し込んでいる。目が暗闇になれてくると、外の風景が床と壁面に映っているではないか。車が逆さになって、目の前を疾走している。床面は、対面のビルが縦長に映っている。もし曇天ではなく、晴天なら、空の青さもくっきりと映っていたはずだ。わずか数ミリの穴の威力に驚いたものだ。
黒田さんが言う。「これが針穴写真の原理ですよ」。なるほど、単純だが面白い。床面に前のビル、壁面に自動車が逆さに走っている壁面や床面に感光素材を貼れば、この大きな部屋がそのままカメラになる。カメラの歴史は知らないが、きっとこうした発明から発展進化していまのカメラが存在するのだろう。
Column
カメラ・オブスクラ
カメラの語源「カメラ・オブスクラ」は、ラテン語で「暗い部屋」の意味。しかも面白いのは、画家がその部屋に入り、部屋に写った像を書き移すためのものだったそうな。実際の光景をリアルに再現したいという人間の根源的な欲望がここにみてとれる。