top of page

「あたりまえのこと<今>」に寄せて

知れば知るほど、堀尾貞治!

 

 

■神戸で遭遇する堀尾作品

 2年半前に神戸にオフィスを構えて以来、何度も高名な前衛美術家・堀尾貞治氏の作品にやたらと遭遇するようになった。

 最初は確かトンカ書店だった。頓花女史が座るレジの後ろの壁面に掛かっていたオブジェが気になり、あれは?と訊ねると、「堀尾さんの作品。いただきました」と言うではないか。ええ? 気前よくあげちゃう作家さんがいるわけ?

 次に出会ったのは、神戸映画資料館に隣接した新長田ギャラリーだった。具体美術関係の作品の中に堀尾氏の作品もあった。展示されている作品群の何と軽やかで楽しいことか。次はアートスペースかおる、次はプラネットEertH、次はギャラリー301。こんな具合に、神戸エリアにあるギャラリーに顔を出すと、いつも堀尾氏の作品に出くわした。

 そして今年3月20日、BBプラザ美術館で開催される「あたりまえのこと<今>」(3月21日〜6月1日)の開会式・内覧会へ招待された。

 

■3つのパフォーマンス

 会場に着いて招待者の数の多さに驚いた。100人前後はいるだろう。その理由は後で分かるのだが…。

 午後4時に開会式が始まった。館長、来賓の挨拶に続いて堀尾氏の挨拶。よく覚えていないが、次の2点が記憶に残っている。「具体美術のときには、誰もしてないことをやれ!と言われてやっていたが、形や技法にこだわっていると、やがて行き詰まってしまう(この部分、間違っていたら、後ほど訂正予定)」「だから、結局、精神なんだと。自分の精神を反映させることを考えて作品をつくっている」。

 次に、堀尾氏の笛を合図にパフォーマンスが始まった。会場の外に出て、道路の横断歩道に集まる。青信号の時、数名のスタッフがバケツの水を道路にぶちまける。水は坂道を流れるのだが、当日は小雨のため、濡れた道路に水の模様が描けなかったのは少々残念であった。

 次は会場ロビーである。床に置かれた膨大な新聞紙を100人前後の招待客たちが丸めてロビーに投げると、たちまち丸紙の山となる。エスカレーターの上を往来する丸紙もある。

 さて次は、お待ちかねの一分打法による即興ペインティングだ。入口の横壁面にアクリル絵の具を塗りたくり、それを一気に下までのばしていく。さらに別の壁面にもアクリル絵の具を塗った上で、長い四角い木で絵の具をのばし、さらに掌でのばしてジ・エンド。

 内覧会場へ入る。 これはスゴイ。一体何点あるのか数えきれないほど、壁面いっぱいに展示されている。後で美術館スタッフに聞いたところ、作品点数は、1300点以上らしい。写真で展示作品を紹介するのは禁止だろうから、会場の雰囲気だけを伝えておきたい。

 

■1分打法

 過剰なまでの創作欲 堀尾氏の作品は、平面と立体(オブジェ)とパフォーマンスの3つに分類できる。

 パフォーマンスは先ほど少し触れた。具体美術協会のメンバーが行ったパフォーマンスは、1960年代に世界で展開されたハプニングの先駆けではないかと再評価されているが、今回、その現場に居合わせるという僥倖を得たというわけだ。

 平面は1分打法にみるように、驚くべき早さで作品を仕上げていく。それも何枚も。アイデアが次々に泉のごとく湧いてくるのだろう。入口に貼られた100枚の作品もたぶん1分打法で生まれたものに違いない。100分で100枚。これは井原西鶴の1日千句の追善興行に匹敵する。ともに驚異な集中力、豊富なアイデア、それを形にする卓越した技法が備わっていなければできるものではない。短距離ランナーの爆発的瞬発力と、過剰なまでの創作欲から生まれる膨大な作品群。古今東西、天才はすべからく多作である。

 堀尾氏の作品は、自由で遊び心の溢れたオブジェを観るのも楽しい。オブジェの素材は、潰れた空き缶、使用済みの絵の具箱、パレット、段ボール箱、フライパン、傘、木片、かんな、のこぎり、障子の桟など、日常、我々の日常生活の中で<あたりまえのように>目にするものばかりである。一見するとゴミ箱に捨てるガラクタにしか見えないものもある。ところが、それらに堀尾氏が手を加えることで見事に<おどろき>のアートに変身する。まさに堀尾マジック!というべきか。

 

■スタンプラリーで堀尾作品をゲット!

 さて、話はさらに急展開する。実は、開会式・内覧会の前日に、自分たちで作っているフリーペーパー「yurari Vol.5」をトンカ書店に配布するために伺ったところ、今回の作品展の話になり、「すごい企画があるんですよ。スタンプラリーで6個のスタンプを集めたら、堀尾さんの作品がもらえるんです」。うん?またもや、嘘のような話。そして頓花女子から、スタンプラリーの用紙をもらう。19カ所のギャラリー等から6つ回れば良いようだ。トンカ書店もその一つに入っているが、私は半信半疑であった。

 そして当日、入口の貼られていた100枚のドローイング作品がそれだと分かった。先着100名がもらえるらしい。私は、生まれて初めてスタンプラリーに参加しようと思った。

 翌日、午後から、yurariの配布と、スタンプ収集のためにギャラリーを歩き回った。トンカ書店でスタンプを押してもらった時、頓花女史は言った。「私、午前中に自転車で走り回って、もう作品もらいました。私のところにもすでに20人以上の人が来ているから、急いだ方がいいですよ。今日中に絶対に行った方がいいから」。何と、レジの前には、額装された堀尾氏の作品が飾れているではないか。時刻は3時過ぎ。これはヤバいかも知れない。まだ3個しなかい。そこから必死に神戸の坂道を歩き回り、やっと2個。そして最後の1個は、作品交換場所であるBBプラザで押してもらえばいい。汗をかきながらBBプラザに着いたときには作品はまだ7割以上残っていた。やれやれ。好きな作品を選ぶことができるわい。と思いながらも、逆に多過ぎて選ぶのに困ってしまった。ということで、私も無事に堀尾氏の作品をごっつぁんしてしまったのだ。

 

■日常の<あたりまえ>をアートに変貌

 しかし、ここで少し冷静に考えてみよう。世界的に有名な美術家でありながら、まるでスーパーマーケットの特売ように、スタンプラリー先着100名に作品無料プレゼントなんて企画を考え、実行する者がいるだろうか。堀尾氏以外には考えられない。彼にとってはこれも<あたりまえのこと>と言うかも知れないが、我々にとっては<驚き>以外の何物でもない。

 つまり、作品制作にしろ、イベント企画にしろ、行為すべてを日常生活の延長線上にある<あたりまえ>の行為として位置づける堀尾氏の態度こそ、周りの空気をすべてアートへと昇華させる<驚き>の堀尾マジックに他ならない。

 ところで、これまで堀尾氏がつくった作品点数はいくつだろうか? 今回の展示作品だけでも1300点以上ある。一分打法的制作スピードを考えると、う〜ん、気が遠くなる。次回、お会いしたときに、ぜひ伺ってみよう。(2014.03.28)

世紀の寄書でつながる堀尾氏との接点

 1980年、畏友池内琢磨が発行した世紀の寄書(と私が勝手に呼ぶ)『楽に寄す』(竹馬の友社)。執筆者を眺めれば、麿赤児、大森一樹、柳町光男、高橋伴明、井筒和生、町田康、軒上泊、若一光司、南正人、友部正人等に混じって、堀尾貞治の名前もある。堀尾氏41歳の頃である。

 「僕の場合」と名付けられた8Pの内、2Pは真っ白、2Pは真っ黒。そして白黒頁が破られている。そこに小さな紙が挟み込まれている。「このページは作者の意図によって破ってあります。落丁ではありませんので御理解下さい。編集部」。当時から堀尾氏は堀尾氏であった。 私はこの寄書に編集スタッフとして加わっていたが、堀尾氏との面識はない。

 今回、内覧会の会場で『楽に寄す』のコピーを堀尾氏に見せたところ、「ああ、知っているよ」。大勢の人たちに囲まれている堀尾氏からこの言葉をもらっただけで、私は十分だった。次回、機会があれば、じっくり話を伺うことにしよう。

bottom of page